LE CORRIDOR
地元の人がMt.ホール・イン・ザ・ウォールと呼んでいるMt.コーリー。この山をよーく見て欲しい。山頂付近から谷底まで細長い一本の真っ白な雪が詰まった溝が見えるはずだ。これを「Le Corridor」と呼ぶ。これが今回のお話。
実はこのシュートは98年の春に一度アタックしている。その時は大きな雪崩に遭い、失敗した。突然の気温上昇に気もとめず、登り続けた結果だった。細い岩の通路を約半分まで登ったところで、上方から大量の雪が、その通路を鉄砲水のように埋め尽くしたのだ。
怖かった。足は震え、のどはカラカラに乾き、助かったのを確信した後、何故か大笑いした覚えがある。今回はそのリベンジという事になる。2001年1月29日。朝起きると、うっすらと曇り空。ロッキーの東は晴れているらしく、カスケードとボージョー・マウンテンの頂上は真っ赤に染まっている。窓を開けると朝を迎える鳥の声がした。
アッちゃんとカザ。いつものメンバーと旧一号線を西に走る。入口から5分ほど走り、大きく山を右にまわった所に車を止めた。車を止めた所からコリダーは見えないが間違いない、ここが上り口だ。なにせ、3年間も温め続けた計画だ。なぜ、初チャレンジから3年後なのか。バンフは北米大陸の内部に位置する為、降雪量が極端に少ない。この岩の溝に雪が付くのは数年に一度。それが今年の今だっただけの話である。
ハイウェイから道無き道を登ってゆく。倒木が多い。巨大な半分炭になった倒木はぼくらの行く手を遮った。まるでアミダクジのようだ。右へ左へと、倒木を避けていく。ここは93年に国立公園が大きな山火事を起こした場所だ。その昔、山火事は木を燃やし自然を壊す物だと考えられていたが、実は山火事には自然癒治の効果があることが分かって以来、国立公園は自発的に森を燃やし始めた。去年の夏、クートニー国立公園で起きた大規模な山火事をすぐに消さなかったのもこの為だ。 一時間ほどすると、コリダーの入口についた。雪は浅かった。積雪は40センチぐらいだろうか。スノーボードをするには少し雪が足らない気がした。 上を見上げると、長い長い!両側を数十メートルの崖にはさまれたその渓谷はどこまでも天に向かって延びていた。登るにつれて斜度はきつくなり、雪は深くなる。最初、くるぶしと膝の間ぐらいだった雪は、2時間ほど登ったあたりでは腿あたりまで深くなっていた。時折、雪の上に石が落ちている。こぶしほどの大きさだが人を殺すのには十分な大きさだ。これが上から落ちてきた物だと思うとぞっとする。幅5メートルほどの道の両側は20メートル以上の崖だ。しかし、斜度が50度もある斜面を1歩1歩切り開いていくのに夢中で上方に気を使う余裕は無かった。
この雪の溝を3分の2程登った所で突然雪の質が変わった。湿り気のある雪がいっそう両足を重くする。これは最近、谷底より山の上の方が温かかったことを示している。風の無い夜間、重く冷たい空気が谷底に流れ込み、谷底の温かい空気を押し上げる為に起きる現象だ。スキー場でリフトに乗ったら上の方がベースより気温が高かったという経験は無いだろうか、この現象をインバージョンという。一概には言えないがインバージョンは古い雪と新しい雪の結合力を高めることが多い。いい傾向だ。
いつものことだが、今にも手に届きそうな所に頂上と思える稜線が上に見えるのだが、登るにつれてその線が上へ上へとあがっていく。頂上と思ったその稜線はまだ頂上では無かった。しかし、この時点で僕らは勝利を確信した。その思いが両足に伝わり、更に上へと僕らの体を運ぶ。
雪の通路の頂上に立ち、下を見下ろすとそれはとてつもなく長かった。いままで色々な場所を滑ったがこんなロケーションは初めてだった。はるか眼下にはボウ川が凍りつき、自然のハイウェイを作っている。周りの雪を見渡すとビッグホーンシープの足跡が。高度計を見ると標高2,200m。厳冬期、こんなところまで一体何をしに来るのだろうか。非日常の風景は僕らの気分を高める。そんな気分を楽しんでいると、カザがスノーボードを付け、一気にその雪の通路に飛び込んでいった。 長いターンが、長いトラックを刻んでいく。ただ、雪が浅い為、完全に板を踏み込めないようだ。それにならって僕とアツシも長い通路に吸い込まれるように入っていった。雪は最高!狭い通路なので、スピードが出すぎたら、短いターンで減速しなければならない。行く手を真っ白な雪煙が遮る。完全に前が見えない。何度も板の浮遊感を楽しんでいると雪が浅くなり始めた。
板が何度も岩をたたく。エッジは完全にイカレているはずだ。 かまわず僕らは滑りつづけた。コリダーの底まであと50メートルほどだろうか、遂に雪より岩がエッジを叩く回数のほうが多くなった。あとは諦めて板をはずし、歩いて降りる。車に乗って15分後、自分のアパートに帰り、晩ご飯の準備…。一気に日常の世界に引き戻されるが、頭の中は夢心地。バンフは退屈だという人がいるが、僕にとってここはディズニーランドよりアトラクションが多い。スノーボードのテーマパークだ。僕はバンフのローカルであることを本当に幸せに思える、幸せな人間である。
永作まさかず
筆者のホームページ*スキー場以外での滑走は充分な知識と経験が必要です。