ゴーツ・アイで…
僕はどうやら穴が好きらしい。といってもエッチな話ではないので勘違いしないで欲しい。洞穴や、落とし穴の話である。
子供の頃、川口浩の水曜スペシャルはもちろん好きだったし、穴の底に水を張り、更に念をいれて犬の糞まで混入した落とし穴に、掘った位置を忘れて自分が落ちたりと、穴には随分たくさんの思い出がある。とにかく穴があれば入ってみたい。無ければ自分で掘ってしまう。「穴には男のロマンがあるのだ!」と興奮していても始まらないので先に進む。
バンフ周辺、実は穴天国。バンフから10分ほどの所にあるマウント・コーリーと呼ばれる岩山には、どてっぱらに「ホール・イン・ザ・ウォール」と呼ばれる巨大な穴が空いているし。「グロット・マウンテン」と呼ばれる山には洞窟探検ツアーで有名な「ラット・ネスト」という長い鍾乳洞がある。
今回目指した穴は、「ゴーツ・アイ」である。この穴はサンシャイン・スキー場の駐車場から良く見える。石灰岩の岩肌にぽっかり穴が開いていて、その穴からは、まあるく切り取られた空が覗いている。この穴がサンシャイン・スキー場にある「ゴーツ・アイ・マウンテン」の名前の由来でもある。
車を止め、僕らはスキー客とは反対の方向に歩き出した。メンバーは三人。日本でラフティング会社を経営するチュネヒロと、秋田で花を作っているトモ。スノーボーダー僕一人とスキーヤー二人である。
道路を越え、「穴」の真下に。小さな沢がいきなり僕らの行く手を阻んだ。渡れそうで、なかなか渡る所が見つからない。なんとか薄氷の張っている所をおっかなびっくり渡る。一歩踏み出すごとにみしみしと氷が悲鳴を上げる。僕らもそのたび悲鳴を上げる。
何とか沢を渡り切ると、今度は10m程の斜面を登る。深雪のため、登れそうでなかなか登れない。駐車場からほんの100m進むだけで、1時間近く費やす。人生なかなかうまくいかない。そこからは快適な登坂が続く。広い斜面をスイッチバックで登る。斜面が広いのは雪崩の通り道だからだ。この日、雪崩の可能性は低かったがキンチョーしながら進む。森林限界線を越える。あっさり書いてしまったが、かなりきつかった。しかしながら、空は快晴。雲の一つも無い。
ここからは斜面がきつすぎてスキーのソールに貼るシールが利かない。スキーを背負い、膝近くまで雪にうもれながら進む。余計な過重が背中にかかり、さらに登りはきつくなる。1時間程登ると、もう手をつかないと登れないほど斜面がきつくなってきた。斜度は45度を完全に越えている。「穴」はもうすぐそこなのに、腿までスッポリ入ってしまう雪が僕らの足を捕らえ、なかなか上に進めない。体はほてり、チュネヒロを見ると体全体から湯気が出ていた。一心不乱に登っていると目の前に穴があった。穴の向こう側には初めて見る風景が広がっていた。
「ゴーツ・アイ」(山羊の目)は思っていたより小さかった。直径は5mぐらい。穴の中でぶっ倒れていると、下から次々と仲間が上がってきた。
「穴」の中でハイファイブ。三人抱き合いながら、登頂を祝う。サイコーの気分だ。ただし、ここから僕らの気分は一気に落ち込む事になる。トモが滑る準備をする為にグローブをはずす。なかなか手が思うように動かないようだ。そして、自分の手を見て「なんだこれ・・」とつぶやいた。トモの手を見ると、指先がロウのように白い。凍傷だった。こんなにひどいのは初めて見た。早く降りて治療をしなければならない。真っ直ぐ降りれば30分ぐらいで車につけるはずだ。とりあえずストックが握れるように指先を溶かした。
下りは早かったが、長かった。パウダーが「穴」から駐車場まで続いていたが、楽しむ事は到底無理であった。早く下山する事ばかりを考えていた。たた、トモの指が心配であった。
初めて感じる敗北感でいっぱいだった。僕らは「穴」を制覇し、降りてきた。ただ、無事ではなかった。自分のパーティーから怪我人が出た時のショックは思ったよりも大きかった。今までは運が良かっただけなのか?永作まさかず
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